コンタクトレンズ
大学一回生までは眼鏡だったが、妹がコンタクトレンズをしだしたので自分もすることにした。
角膜の上にレンズがあるので、網膜までの距離が眼鏡に比べ短かく屈折異常を矯正するのには理想的とか、うどんを食べてもくもらないとか、もてるかもしれないとかいろいろなことを聞いたり考えたりして決めた。
当時はハードレンズが主流で、また私のように度の強い眼鏡をかけてるものにはハードの方が良いとされた。
店でコンタクトの入れ方を教えてもらって家に帰って練習した。これがなかなか慣れるまでは大変だったが、慣れてしまえばなんのことはない。部分入れ歯も最初は大変だったが、慣れてしまえば簡単にはめたり外したりできる。コンタクトもそんな感じだ。
ただ、コンタクトがずれて眼球の奥に回りこんだ最初のときはぞっとした。幸い妹という経験者がいたので助けてもらったが、目をまぶたの上から押すのなんてやったことないし大丈夫かと不安になった。それに目の水分が足りない感じのときは張り付いたように動かないので、どうしようと思ったこともある。
コンタクトは、湯気の立ってる食事をする時とか、家が牛乳屋だったので冷蔵庫に出入りする時とか、くもることがないので便利だ。雨の日も眼鏡のように水滴が付いて見にくくなることもない。
しかし短所も多い。
当時のコンタクトレンズでは、最初の内は目に負担がかからないように短い時間から段々と装着時間を延ばしていく。
学生時代というのはむちゃくちゃなことをしているもので、徹夜マージャンをしたりつぶれるまで飲んだりする。そんな時、横着をかまして装着時間を無視したり酔っ払ってそのまま寝てしまったりすると、明くる日は目がかすんだりする。
ど近眼なので目が飛び出てるのか、眼球のカーブが強く、横をぱっと見たりするとコンタクトがずれたり外れて落としたりよくした。自動車のバックもそんなわけでしっかり首を回して見ないとやりにくい。
水泳も外さないとできないので、水から遠ざかる生活になる。
夜の運転も対向車のヘッドライトの光が筋のように見え、視界がしっかり見えないときがあったので、明るい色のサングラスをしたり工夫がいった。
ハードコンタクトは埃が入ると目が痛い。ただならぬ痛みの時が多く、そのままでは目も開けられないほどの時が多いので、その都度外して洗いまた入れることになる。だから、風の強い日で乾燥して埃が舞う時はどうしようとか思う。目を細めてできるだけ埃が入らないように願うしかない。
バンクーバーで空手のNさんの本職は大工なので、ある年、店は妻一人でみられる程度の小規模のとき、ヘルパーとして手伝っていたことがある。
カナダの家はほとんどツーバイフォーなので壁にジプロックと呼ぶ石膏ボードを使う。突合せのところにパテを塗っては紙やすりで削って平らにしてつなぎ目のない壁にするのだが、その過程で石膏の細かい粉が空中に舞う。その細かさは普通の掃除機を使ったら、フィルターが詰まって使えなくなるほどのものだ。それが、コンタクトをしてる目に入る。細かいのでいらいらとするものの痛いまではいかないのでやり続けていたら、あるとき目の前がかすんで見えるようになった。
それで、ホームドクターに目医者を紹介してもらってみてもらったら、角膜が石膏の粉で無数の傷を付けられているのが分かった。そのままだと角膜がだめになるとおどかされ、暫く眼鏡にしていたこともある。
それから、コンタクトレンズをしているうちに、乱視になった。これもそのときに分かった。日本では乱視はなかったのでこれはコンタクトのせいだと思った。
この考えにいつ至ったのか憶えていないが、視力が良くならないかといつも考え、また本も買っていた。それで、眼球を動かす筋肉は確か6本あったと思うが、私の場合、横を見るのに激しく眼球を動かすと外れたりずれたりするので、まずそれはしない。コンタクトという重しの乗った眼球を上下に動かすのは自然に起こる。そんな眼筋の偏った使い方が、眼球を歪ましたのだろう。
たぶん大きな角膜全部を覆うようなソフトコンタクトはその理屈からいくと乱視になりにくいだろうと思っている。
(つづく)
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